ソフトウェア

仮想燃料電池開発 - コンポーネントとシステム

AVLシミュレーションソリューションのアップデートと改良

Software Release - Fuel Cell - Components and Systems

仮想燃料電池の分野におけるAVL CRUISE™ Mの最新開発状況

この3Dスタックモデルは、システムレベルにおける一つの節目を達成しました。3次元表現により、広範なCFDシミュレーションを実施することなく、スタックの性能特性に対する空間的不均一性による影響を調査できます。

CRUISE MのPEM形燃料電池(PEMFC)モデルと固体酸化物形燃料電池および電解槽(SOxC)コンポーネントは、3Dにおけるスタック挙動を完全に反映するように拡張されています。以下の3つすべての次元で空間解像度を構成できます。ガスチャネルを直線または蛇行から選択し、フロータイプを平行またはクロスフローから選択します。不均一な吸気流量条件は、2Dの陰極と陽極吸気面をそれぞれ対象とする専用の入力データマップを用いて処理します。温度3Dスタックモデルは、任意のスタック温度調節を記述する自由に構成可能な方法で、CRUISE Mの液体および気体のネットワークに接続できます。結果解析は、完全な3Dによる後処理、専用の2Dカット、およびユーザー定義の測定位置での時間ベースデータによってサポートされています。

代表的なモデルサイズ(空間離散化に使用されるセグメント数)に対して計測されたCPU時間は、 0.25(50セグメント)から3(600セグメント)までのリアルタイム係数を示しています。

ADAS/AD Release R1 2023 - Figure 2: Performance benchmark of an Adaptive Cruise Control System (ACC) test setup executed on a normal notebook
図1:AVL CRUISE™ Mの3Dスタックモデルは、性能、劣化、コールドスタートに関連するスタック内の個別セルの局所状態に関する情報を提供します。

CRUISE M 2022 R 1で最初にリリースされたPEM FC(固体高分子形燃料電池)ジェネレーターは、内蔵の最適化技術を活用し、測定データに基づくスタックモデルのパラメーター化をサポートできるように拡張されています。このバージョンのCRUISE Mでは、スタックコンポーネントだけでなく、モデルの実行に必要なすべてのインフラコンポーネントも自動生成されます。これには、閉鎖電気回路、陽極および陰極供給のガスネットワーク、プラント運用の制御機能、パラメーター化に使用される測定データ、およびオンラインモニタリングと結果後処理用のカスタマイズダッシュボードが含まれます。この工程の最後に、最高水準の精度で参照データを表す最適化モデルパラメーターを特徴とする、スタック構成要素モデルも使用できます。FCモデルジェネレーターを一通り体験して、後は「実行」をクリックするだけです。

Abbildung 2: Schematische Darstellung der Parameteroptimierung
図2:AVL CRUISE™ Mグラフィカルユーザーインターフェースに表示されたすぐに実行できるモデルトポロジー

メタノールやエタノールなどの液体燃料で固体酸化物形燃料電池(SOFC)システムを運用する場合、これらの燃料はSOFCスタックに供給される前に気化しなければなりません。液種の気相への蒸発および気相からの凝縮は、CRUISE Mでサポートされるようになりました。

以下の5つの気体経路コンポーネントから選択できるようになっています。プレナム、擬次元パイプ、制限、気熱交換器、気体流損失です。また、CRUISE Mは、気体流と相互作用する専用の液膜を構成できます。この液膜モデルは、気体との対流熱交換、基礎壁への伝導熱伝達、ならびに蒸発/凝縮時に消費/放出される潜熱を考慮します。必要なすべての液体特性は、特定データベースから提供されます。さらに、気流からの液滴の捕捉、あるいはキャリーアウェイ効果による液滴の放出により、膜質量は変化します。伝熱と蒸発/凝縮は、選択した液体特性と流動条件に影響される基本的かつ物理的に考慮すべき事柄に従います。重要なことですが、トラッピング効果とキャリーアウェイ効果が実証的にモデル化されています。

Fuel Cell Release R1 2023 - Figure 3: Water content and transport model overview
図3:AVL CRUISE™ M SOFCシステムモデルへのエバポレーターコンポーネントモデルの統合の概略図

また、AVL FIRE™に関連した新たな開発も行われています。

Virtual Fuel Cell Development
図4:0.9Vから0.6Vまでの300.000回の台形電圧サイクルにおけるシミュレーションと実験での電気化学的活性表面積(ECSA)の減少

CFDツールであるAVL FIRE™ Mの既存PEM FC劣化モデルを拡張し、化学分解効果を追加しました。FIRE Mのこのリリースにより、高分子電解質膜における白金バンドの形成をシミュレートできます。白金バンドの形成は、実際には望ましくない効果、すなわち陰極の触媒層における白金の損失の結果です。ただし、バンド形成にはプラスの効果もあります。白金バンドによる膜中の水素消費は、陰極触媒層を大量の水素クロスオーバーから保護し、寄生反応の影響を低減します。

具体的には、金属白金の溶解によって陰極触媒層に発生した白金イオンが膜中に拡散し、陽極からの水素のクロスオーバーと反応して固体の白金結晶を形成します。これにより、白金バンドと呼ばれる膜内部の触媒表面が形成されます。白金バンドの位置およびサイズは、温度、電位または濃度などの局所的な運用条件で決まります。白金イオンと水素との反応の他に、酸素と水素の還元、過酸化水素の還元、 白金溶解などの付加反応が新しい触媒表面で起こります。



FIRE Mで利用可能な既存の触媒層および膜劣化モデルと組み合わせることにより、時間の経過とともに燃料電池性能が低下するECSA(電気化学活性表面積)の減少を空間的および時間的に詳細に解析できます。FIRE Mの独自の数値解析手法により、数百時間に及ぶ加速応力試験における複数の電圧サイクルがPEM FCの性能進化に及ぼす影響などを効率的にシミュレートできます。

FIRE Mの燃料電池モジュールは、低温PEM形水素コンプレッサーのシミュレーションモデルを提供しています。

電気化学式水素コンプレッサー(EHC)では、クローズドシステムで電気エネルギーを供給し、水素を連続的に生成します。このプロセスは、目的の圧力(最大700 bar)に達するまで実行されます。従来の機械的水素圧縮と比較して、EHCには多くの長所があります。長所には、高効率、静穏な動作、堅牢性などがあります。

設計:EHCは、PEM形電解槽とPEM形燃料電池を組み合わせています。PEM形燃料電池と同様に、陽極側で水素が酸化し、水素の陽子と電子を生成し、PEM形電解槽と同様に、陰極側で水素の陽子と電子を再結合して水素を生成します。EHCの材料は基本的にPEM形燃料電池と同じです。

新しいEHCモデルは、遷移モードと定常モードの両方で使用できます。質量、熱輸送および電気化学プロセスに関するインサイトを得られます。それにより、ハードウェア設計機能、膜およびGDL材料特性、ならびに性能および効率性にかかる運用条件が与える影響を判断できるようになります。

Virtual Fuel Cell Development
図5:電気化学式水素圧縮機(EHC)セルに関する文献からの実験データによる、シミュレーションを利用した電流密度と圧力上昇の比較