食器洗浄機設計を最適化する粒子法理論に基づくシミュレーション
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食器洗浄機は、現代ではほとんどすべてのキッチンに見られる一般的な家電製品の1つであり、事実、何十年も前から一般的に使用されています。私たちは食器洗浄機とその機能を当たり前のものと考えがちですが、1850年に米国で機械式食器洗浄機の特許が最初に登録されて以来、絶えず改良が続けられ、長く進歩を遂げてきました。これは、設計を改善・最適化するために常に限界に挑戦している設計エンジニアのおかげです。数十年にわたり、食器洗浄機の設計と機能を環境や時代の変化に適応させてきただけでなく、食器洗浄機の効率性におけるさまざまな側面を解析・強化するために使用される手法と技術も大きく変化してきました。
プロトタイプの開発支援を行うためにCFDシミュレーションを利用することの重要性は継続的に高まっていますが、これは極めて当然といえます。シミュレーションを活用して、ジェット水流によって食器洗浄機全体に配置されたさまざまな食器に作用するせん断力、食器洗浄機内の湿潤や温度分布、洗浄に必要なエネルギーなどの物理量に関するインサイトを得ることができます。さらに、仮想モデルを調整することで、複数の設計バリエーションをシミュレートすることができ、物理的なプロトタイプを製作したり、実験中のデータ収集に使用する高価なセンサーを設置したりする必要がなくなります。
食器洗浄機の設計には、シミュレーションを活用して解析・最適化が可能ないくつかの側面があります。これらの側面の多くは、CFDシミュレーションを実行することで調査できます。例えば、設計エンジニアが一般に調査したいと考える側面には、次のようなものがあります。
- スプレーノズルの最適化:
エンジニアにとって、スプレーノズル形状のさまざまなパラメーターを変更することで、スプレー全体に与える影響を把握することは常に重要です。これには、スプレーアームに沿ったノズルのサイズ、形状、位置、数の変更が含まれる場合があります。最終的な目的は、最適な水の配分と洗浄効率性を確保することにあります。
- 食器洗浄機のバスケットとラックの設計改善:
食器洗浄機全体の設計を改善する重要な側面は、内部のスペースを効率的に活用することで食器洗浄機の容量を増やすことにあります。これには、バスケットの設計を変更して食器の収容量を増やすことや、配置を最適化してラック内全体の容量を増やすことが含まれます。
- インペラーと配管システム内の流体の流れを解析:
CFDシミュレーションでさらにできることは、インペラーや配管システムなどの、食器洗浄機のフード下の部品内での流体の解析です。このようなコンポーネント内の流体をシミュレートすることで、流量と速度、ならびにさまざまな動作条件下でこれらのコンポートネント内の流体が及ぼす力に関する情報を引き出すことができます。
- 食器配置の最適化:
おそらく、顧客の観点から最も興味深い情報は、一般的に使われる食器類を最も効果的に洗浄するために最適な食器の配置でしょう。メーカーは、食器洗浄機の設計最適化に関するインサイトを得ることに加えて、シミュレーションからその情報を取得することで、顧客へ簡単に最適な方法を提供することが可能になります。
PreonLabは、自動車業界における多くの用途で使用されている粒子ベースの主要シミュレーションツールです。しかし、平滑化粒子流体力学(Smoothed-Particle-Hydrodynamics)法をベースとする独自のPREON®テクノロジーの利点は、特に自由表面流を含む場合にさまざまな用途のシミュレーションに拡張できる点にあります。実際、PreonLabのメッシュフリーなアプローチと、単相、多相、熱シミュレーションの実行能力により、食器洗浄機の設計のいくつかの側面についてインサイトの獲得と最適化を行う上で非常に有用なCFDツールとなっています。
メッシュフリーであるため、設計変更を繰り返すたび、シミュレーションを行う前に、一般的な食器洗浄機の複雑な形状をすべてメッシュ化するために時間と専門知識を費やす必要はありません。例えば、従来のメッシュベースのツールでは、設計変更後に新たなシミュレーションを実行する前に、変更されたCAD形状の再メッシュ化が必要でした。これに対してPreonLabでは、この再メッシュ化のステップが不要で、古い形状を新たな形状に置き換えるだけで、すぐにシミュレーションを開始することができます。これを図1に示します。このように、高速プロトタイピングでは貴重な時間と労力を大幅に節約することができます。
PreonLabはオールインワンツールです。つまり、形状をソフトウェアにインポートした後にシミュレーションと後処理のあらゆる側面に対応します。シミュレーションのセットアップから後処理、レンダリングまで、エンジニアは同じソフトウェアを使用してインサイトを得ることができます。
さらに、PreonLabはCPUとマルチGPUでのシミュレーションをサポートしており、最適なシミュレーションパフォーマンスを保証しています。また、SPH特有のパフォーマンス上の利点に独自の陰解法を加え、安定性を損なうことなく、大きなタイムステップ(CFL 1)でのシミュレーションを実現します。さらに、連続粒子サイズCPS (Continuous Particle Size)のような高度なアルゴリズムにより、適合粒子細分化と粗大化を実現し、RAMやVRAMの要件と計算時間を効率的に最小限に抑えることができます。
さらに、このソフトウェアはPreonPyと呼ばれる独自のPythonベースAPIを搭載しています。PreonソルバーやPreonLabにあるほとんどの機能は、PreonPyからアクセスできます。シーンの読込と保存、プロパティの変更、シミュレーションの実行、統計情報の取得が可能です。この機能は、動作条件、ノズルの形状、スプレーアームの運動学、流体特性、または食器や食器ラック配置の変更によって必要となる、複数のシミュレーション派生型を作成する際に特に威力を発揮します。図2は、Python-APIであるPreonPyを使用してシミュレーション派生型を迅速に生成し、高速プロトタイピング戦略を改善するワークフローの例を示しています。
Preonlabでの食器洗浄機シミュレーションはどのようなものでしょうか
ビデオ1は、PreonLabでの単相シミュレーションの例を示しています。水を表す流体粒子がスプレーアームのノズルから放出され、固体の食器に水が噴霧されます。シミュレーション結果は、内蔵のPreonRendererを使ってレンダリングされます。
ビデオ1:PreonLabでの食器洗浄機のシミュレーション
さらに、多相シミュレーションを実行して汚れ落ちを解析することもできます。ニュートンおよび非ニュートンの材料特性により、食器に残留する食品をシミュレートし、食器洗浄機の洗浄効率を調査できます。ビデオ2は、シミュレーションで一部の皿に付着したケチャップ状およびカボチャスープ状の残留物を、水流ジェットがどのように洗浄するかの例を示しています。
ビデオ2:汚れ落ちを示す食器洗浄機シミュレーション(多相)
どのようなインサイトが得られるでしょうか
設計エンジニアが、スプレーノズルの形状や方向を最適化することで水の分布を改善することに関心がある場合、PreonLabの湿潤センサーを使用してフローパターンを解析できます。実際、そうするために、シミュレーションのセットアップを簡素化し、食器をシミュレーションから除外することが可能です。代わりに、スプレーアームの上部に平面を配置し、その平面に湿潤センサーを接続することで、いくつかの設計バリエーションについて湿潤パターンを観察できます。図3に、その例を示しています。その後、設計を反復的に適合させ、初期段階で望ましい結果が得られれば、セットアップ全体で試験を実施できます。
一般に、スプレーアームの運動学は、一定または可変の回転速度でアームの回転を定義することで簡単に設定できます。また、スプレーノズルから噴射される水流ジェットの力を考慮して、スプレーアームの動きを検討することもできます。スプレーアームと流体の相互作用をとらえることができるPreonLabの剛体ソルバーであればこうした検討が可能です。その例をビデオ3でご紹介します。
ビデオ3:PreonLabの剛体ソルバーによるスプレーアーム(剛体)と水(流体)の相互作用シミュレーション
洗浄効率で最も重要な点は、食器洗浄機内の水の分布と、すべての食器に水が届く範囲です。シミュレーションでは、湿潤センサーを各食器オブジェクトに個別に接続し、各オブジェクトの瞬間的および累積的な湿潤状況を追跡できます。この情報をベースにして、食器洗浄機の洗浄能力を最適化するために変更する必要があるかどうかを判断できます。
もう一つの重要な点は、汚れを除去するために、食器に十分な力で水を噴射する必要があるということです。同時に、過剰な力によって食器が破損するようなことがあってはなりません。当然ながら、あらゆる食器が同じ材質でできているわけではないため、耐えられる圧力の閾値もさまざまとなるのが普通です。また、食器洗浄機バスケット内における位置も、ジェット水流との相互作用に影響します。PreonLabでは、シミュレーションで力センサーを使用することで、食器洗浄機内に配置されたすべてのオブジェクトの壁面せん断応力を個別に解析できます。その結果、噴射された液体が食器に与える影響を追跡でき、食器が損傷していないことを確認しながら、効率的な洗浄に最適な動作条件を決定することができます。
ビデオ4は、湿潤センサーと力センサーを用いて、湿潤パターンと食器に対するせん断応力分布の変化を視覚化したものです。
さらに、不完全な食器配置によって生じる食器内の残液量を予測できることも重要となる場合があります。例えば、図6はビデオ1のシミュレーションでコップの上にできた水たまりを示しています。水たまりが形成されているため、運用中にすべての水が排出されるわけではありません。シミュレーションから得られたインサイトにより、バスケットの設計を変更したり、バスケット内のカップの配置を変更することで、このような水たまりを形成する水の量を減らすことを検討できます。
最後に、洗浄プロセスの熱力学を理解することは、設計エンジニアにとって非常に重要です。PreonLabでは、流体力学だけでなく、熱効果も解析できます。PreonLabの熱解析機能により、エンジニアは共役熱伝達(CHT)モデルを使用して包括的な解析を実行できます。映像5では、60℃の温水ジェットが初期温度20℃のコップに当たり、その結果生じるコップの温度変化を可視化しています。
ビデオ5:PreonLabで共役熱伝達を利用した、洗浄プロセス中にコップを温める温水ジェットのシミュレーション
ここに示したものは、ほんの一部に過ぎません。単相、多相、熱のいずれであっても、PreonLabの多様なシミュレーションとポスト処理機能により、食器洗浄機の設計と洗浄効率の多様な側面を解析・最適化できます。食器洗浄機の設計プロセスの最適化、スピードアップ、コスト削減を実現する、効率的なソリューションを手にすることができます。さらに、PreonLabの非常に効率的なソルバーコード、メッシュ化不要、マルチプラットフォーム対応、便利なPython API-PreonPyにより、ユーザーはシミュレーションのワークフローを加速し、高速プロトタイピング戦略の一環として、広範な設計条件や動作条件のシミュレーションを迅速に実施できます。
数多くのシミュレーションを実行することで、貴重なインサイトを獲得できます。このような食器洗浄機シミュレーションを効率的に追跡する方法をお探しなら、スマートなウェブベースのインターフェースをご用意しております。FIFTY2のエンジニアがどのようにPreonLabシミュレーションの実行を監視し、シミュレーション派生型を整理し、結果と統計データを比較し、FIFTY2 Technologyが新たに開発したツールPreonDockを使ってチームメイトと共同作業を行っているかをご覧いただくことができます。
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Maximilian Flamm
サバ・ゴルシャーヒ・スメサラーイ
シッダールト・マラテ
FIFTY2 Technology GmbH